扁桃体を失い、恐怖を感じなくなった女性の話。扁桃体の機能とその働きについて解説します

これから5回にわたって「扁桃体」と「前頭前野」について解説していきます。

扁桃体と前頭前野について様々なことを学び、最終的には不安を効果的に鎮める「感情のコントロール法」を紹介していきたいと思います。

今回は初回ということことで主に扁桃体の機能・働きについてですね。

脳と心の関係についてしっかり学んでいきましょう!(^ω^)

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扁桃体とは?扁桃体を削除したサルは恐怖が消える

扁桃体とは大脳辺縁系に属する組織。アーモンドのような形をしていて、大きさは親指の爪くらいです。十三以上の部分から構成され、各部分がそれぞれ異なる機能を持つと考えられています。

扁桃体は「感情の脳」ともよばれる大脳辺縁系において中心的な役割を担っており、快、不快、怒り、恐怖といった本能的な感情と、それに伴う身体反応に深く関わっています。

身体反応とは、「恐怖を感じたときに心臓がドキドキする(心拍数があがる)」といった感情の変化に伴う身体の変化のことを指します。

扁桃体は私達を悩ませるネガティブ感情と深く関わっており、ネガティブな感情の代表格「不安」や「恐怖」はこの扁桃体で生み出されていると考えられています。

扁桃体の働きを示すサルを使った有名な実験があります。扁桃体を削除されたサルは、本来怖がるはずのヘビを見ても逃げることなく、逆に食べようとさえするようになります。

恐怖という感情がなくなってしまったのですね。

同様のことは人間でも確認されています。以下、「脳科学は人格を変えられるか? 著 エレーヌ・フォックス」より扁桃体を失った女性のエピソードを紹介します。

扁桃体を失い、恐怖を感じなくなった女性

参考図書 「脳科学は人格を変えられるか?」 著エレーヌ・フォックス 

リンダという女性は三十歳のとき、てんかん治療のため扁桃体と記憶に重要な役目を果たす海馬の左部分を除去する手術を受けました。

手術は無事に成功し、てんかんの発作はほとんどおさまりました。心配されていた記憶の消失についても海馬の右側が無傷で残されたおかげで問題は起きていませんでした。

リンダは時おりぎこちない動作をすることや、アイ・コンタクトの仕方が微妙に普通の人と異なるという点を除けば、特段おかしなところは見受けられませんでした。幸せな結婚をし、扁桃体がないことを別にすれば、ごく普通の生活を送っていました。

しかし、落とし穴がありました。リンダは他者の恐怖を認識する能力を失っていました。

扁桃体を損傷した他の人々と同じようにリンダは、微笑んでいる顔を見れば、「フレンドリーだ」と難なく認識できるし、しかめ面を見れば「嫌な感じがする」と認識できる。嫌悪や驚きの表情を認識するにも、何ら問題はない。

けれど、おびえたような恐怖の表情に対しては、まるきり無反応だった。「何も感情がないみたい」と彼女は言った。「中立的な表情に見える」。

私はリンダに恐怖の表情の写真をつぎつぎ見せ、彼女はそのたび、そこに示されている感情を読み取ろうと必死になった。扁桃体に損傷を受けた人はどうやら、他者の恐怖を認識する能力を失ってしまうのだ。

「脳科学は人格を変えられるか?」 著エレーヌ・フォックス p159

また、著者エレーヌがこのことを、扁桃体を損傷した人々を過去に何人も研究してきた心理学者のアンディ・カルダーに報告したところ、リンダの症状は扁桃体を損傷した人に特有のものだと保障してくれたとのことです。

カルダーは言った。

「幸福や驚きや嫌悪などをあわらず顔写真を見せたときは、扁桃体に損傷がある人もない人も、ほぼ問題なくそれらの表情を認識できた」

けれど、恐怖や怒りの表情の写真を見せたときには状況が変わった。「扁桃体を損傷した人は、恐怖の表情を認識することがどうしてもできなかったし、恐怖と怒りの表情を区別することにもたびたび失敗した」という。

「脳科学は人格を変えられるか?」 著エレーヌ・フォックス p159

また、リンダは日常生活においても

・うなり声をあげている犬を平気でなでようとする

・走っている車の目の前に歩き出そうとする

・熱い炭を素手でそのままつまみあげようとする

などの行動を取り、手術を受けてからの最初の二年間は怪我ばかりしていたそうです。

時間をかけ、ようやく様々な危険に注意することをリンダは改めて身につけましたが、それでも、「恐怖や不安などの感情を抱くことは今もいっさいない」と彼女は語っています。

扁桃体を損傷すると不安や恐怖が消える。

このような例からも、扁桃体は「不安」や「恐怖」といった感情の発生源ということができますね。

扁桃体の主な機能。常に脅威を探し続ける扁桃体

それでは扁桃体の主な機能・働きについてまとめていきましょう。

不安や恐怖を生み出している「扁桃体」の主な働きは危険を探知し、人間がそれに反応するのを助けることです。

扁桃体はいわば脳の非常ボタンであり、危機が眼前に迫っていることを脳のほかの部分に知らせる働きをもっています。

以下、私達が脅威に遭遇したときに働く「扁桃体を中心とした恐怖の回路」について説明していきます。

「見たり」、「聞いたり」、「触れたり…」

いわゆる五感を通して私達が得た情報は脳の視床という部分に集められます(ただし嗅覚だけは別)。

視床は頭のほぼ真ん中に位置しており、集められた情報を脳の最適な部分に送り出す中継地点。不安や恐怖を生み出す中心となっている扁桃体への情報もこの視床を経由して送られてくることになります。

扁桃体は視床より送られてきた情報をスキャンし、その中にわずかでも脅威を感じるものを発見すると猛スピードで作動しはじめ、脳の各部位にその情報が伝わります。

例えば、道端で大きなヘビに遭遇すると恐怖を感じ、自然と心臓の鼓動・呼吸のペースが速まり、全身がこわばりますよね?

この恐怖の感知と身体反応は以下のような流れで引き起こされています。

扁桃体がまず恐怖を感知すると、脳幹からアドレナリンやノルアドレナリンといった神経伝達物質が前頭前野をはじめとする脳内に分泌されます。ノルアドレナリンは興奮性の神経伝達物質で、恐怖や怒りの感情を引き起こします。

また、扁桃体が感知した恐怖は視床下部へ伝わり、視床下部は身体を緊張・興奮に導く交感神経に働きかけます。その結果として、心臓の鼓動・呼吸のペースが速まる、全身がこわばるなどの身体的な変化が起こります。

なぜこのような身体の変化がおこるのかというと、これは「ファイト・オア・フライト(闘争か・逃走か)反応」とよばれ、差し迫る危機を切り抜けるために身体が即座に準備を整えるのです。

ファイト・オア・フライト(闘争か・逃走か)反応とは

ファイト・オア・フライト反応は主に以下ような特徴があります。

①瞳孔が拡大する…相手や周囲の状況をよく見られる

②気道を弛緩させる…より多くの酸素を取り入れられるように気道が弛緩し、呼吸も速くなる

③心臓の鼓動を促進…心臓の鼓動を促進させ、全身の筋肉や脳への大量の血液を送り、素早く動き、的確な判断ができるようにする

④胃の消化を抑制…胃での消化など必要のない活動も抑制される

⑤発汗促進…体温の上昇を抑えるために汗がにじむ

扁桃体が危険を感知し、それが各部位に伝わることによって上記のような身体反応がおこり、目前の危機に対して立ち向かい排除するか、それとも素早く危機から逃れるか、どちらにも対応できるよう身体が即座に準備を整えるのですね。

例えば、大きなヘビに遭遇しても、「気分はほんわか幸せ気分。身体もリラックスしていてのんびりお休みモード」といった状態では早急に安全な場所に避難することができず、命を落とすこともあるかもしれません。

扁桃体が恐怖を感知し、それが視床下部に伝わることによって交感神経が働き、目前の危機に対して即座に対応できるようになるのです。

扁桃体は私たちが危機に対し適切な対応をするうえで、欠かすことのできない重要な役割を担っているのですね。

まとめ

さて、まとめです。

今回は主に扁桃体の機能と働きについて解説してきました。

扁桃体は不安や恐怖の発生源であり、身の回りの危険を探し続ける危機感知システム。また、扁桃体からの情報が脳幹や視床下部に伝わることによって、目前の脅威に対応できるよう身体が闘争・逃走モードに切り替わるのでしたね。

次回の記事ではこの内容を踏まえ、更に扁桃体という脳部位の特徴を解説していきます。

「なぜ私達はネガティブな情報に目を奪われてしまうのか」また、「なぜ冷静に、楽観的に物事を考えるのが悲観的に物事を考えるよりも難しいのか」

この二点にも触れていきますので、興味のある方は是非次の記事もご覧ください!(^ω^)

~この記事の要点~

・扁桃体は大脳辺縁系に属する組織。大きさは親指の爪くらいでアーモンド状の形をしている。

・扁桃体は快、不快、怒り、恐怖といった本能的な感情と、それに伴う身体反応に深く関わっている。

・不安や恐怖は扁桃体で生まれている。扁桃体を削除されたサルは恐怖を感じなくなる。同様のことは人間でも確認されている。

・扁桃体の主な働きは危険を探知し、人間がそれに反応するのを助けること。

・扁桃体が脅威を感じ取ると、それが脳幹や視床下部に伝わり、目前の危機を切り抜けるために身体が準備を始める

・この身体的変化は「ファイト・オア・フライト(闘争か、逃走か)反応」とよばれ、危機に対応できるよう身体機能を高める働きがある

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